石川県金沢市で整体サロンを経営する北川久美子さん。元々は大手サロンで働いていた北川さんが独立開業するまでの道のりと、開業後の挑戦について伺いました。整体サロンの開業を考えている方や、現在経営に悩んでいる方に向けて、北川さんの経験から学べるポイントをお届けします。
店舗経営者プロフィール

北川久美子さん、石川県金沢市で整体サロン(リラクゼーションサロン)「ミーシュカмиШка~安息の日々 元気と 癒しと」を経営。
店舗情報:Instagram
金沢市でサロンを開業するまでの経緯
――まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?
「石川県金沢市で整体サロンを運営している北川久美子と申します。正確には整体を取り入れたリラクゼーションサロンという感じですね。どちらかというとリラクゼーションに近い雰囲気だと思います」
――サロンはご自身で借りて運営されているんですか?
「そうですね。賃貸で借りています。1人で運営しています」

金沢市といえば、北陸新幹線の開通以降、観光客が増加している注目のエリア。北川さんによると、石川県は日本で唯一空襲の被害に遭わなかった都道府県で、古い建物や古民家が数多く残る風情ある街並みが魅力とのこと。
サロン開業のきっかけと資格取得の道のり

――整体サロンを開業しようと思ったきっかけは?
「今の時代は不況で、癒しを求める方が多いと思います。特に日本人は身体だけでなく心も疲れやすい印象があります。私自身も会社員時代にストレスを抱えていて、たまたま行ったリラクゼーションサロンでこういう仕事があるんだと感銘を受けました。自分も癒されたいから、逆に人を癒す仕事ができたらと思ったのがきっかけです」
北川さんの話を聞くと、リラクゼーション業界への転職を考える人は少なくないようです。会社員として働きながらも、癒しの仕事に憧れる人が多いといいます。
――開業にあたって、どのような準備をされましたか?
「準備は、引っ越しのタイミングで整体院として運営できるような物件を探しました。マットレス、タオル、お客様をいつでもお迎えできるように椅子なども揃えました。最初は少額で必要なものから少しずつ揃え始めました」
――資金調達はどうされたんですか?
「会社員時代に貯めていた貯金を切り崩して、少しずつ必要なものを買い足していきました」
――整体の技術や専門知識はどのように学ばれたんですか?
「金沢で会社員をしていた時、同僚に元整体師の方がいて、その方の仕事ぶりを見て整体師という仕事に興味を持ちました。金沢には整体スクールがなく、あっても授業料が80万円ほどと高額でした。そんな中、会社の出張で大阪に行った際に、たまたま宿泊先の近くに授業料が24万円ほどの整体スクールを見つけました。週に2日、1回1時間半程度の授業で、合計3ヶ月通いました」
開業前の失敗と学び
――開業準備の段階で失敗したと感じることはありますか?
「整体の資格を取った後、それだけでは物足りなく感じて、他にもいろいろな資格を取ろうと思いました。大阪の1日講座など、7〜8万円するスクールにもいくつか通いましたが、今思えばそこまで投資する必要はなかったと思います。当時は『資格はあればあるほど良い』と思っていましたが、今は特化した方が良かったと感じています。1日で取った資格は本当に紙切れにすぎず、もったいなかったです」
北川さんは「整体師の資格だけで十分だった」と振り返ります。しかし同時に、様々な講師から学んだ経験は無駄ではなかったとも。
「人によって教え方も違いますし、多様な教え方を知ることができました。自分ならこう教えるのになとか、この教え方は参考にしようとか、気づきはありました。お金は使いすぎたかもしれませんが、勉強にはなりましたね」
開業後の現実とギャップ
――オープン当初はどんな状況でしたか?予想とのギャップはありましたか?
「会社員時代は大手サロンに勤めていて、1日に4〜5人ほどのお客さんを担当していました。開業後もそれが当たり前だと思っていましたが、実際に開業してみると全然お客さんが来ませんでした。1ヶ月に数人来てくれる程度で、イメージしていたのとはだいぶ違いました」
――オープン当初と今では変化がありますか?
「オープンと同時にホームページを作ったり、インスタグラムを始めたり、Googleマップに掲載したりと、少しずつ取り組みました。その結果、『インスタを見ました』『Googleマップで検索したら出てきたので予約しました』という新規のお客さんも増えてきました。リピーターの方も少しずつ増えてきています」
北川さんによると、新規のお客さんが増え始めたのは開業から8〜9ヶ月ほど経った頃だそうです。
――開業後の厳しい時期をどう乗り越えましたか?
「ちょうど冬の閑散期だったこともあり、時間が余っていました。近くの図書館に行って集客に関する本や整体の専門書などを読み、勉強に時間を費やしました。1回に5冊くらい借りて読んでましたね」

開業後の後悔と改善点
――開業後に「こうしておけば良かった」と感じることはありますか?
「周りの同業者、特に開業経験のある先輩方の意見をもっと聞いておけばよかったと思います。集客方法やお店の状況など、実際に経験した人の生の声を聞くべきでした。私はネットで検索したりYouTube動画を見たりしていましたが、それだけでは不十分でした」
北川さんは他のサロンに通う際も、自分が同業者だということを隠していたと言います。
「同業者だと相手に嫌な気分にさせるかもしれないと思い、『お客です』という前提で行っていましたが、今思えば隠さずに『私も同業で開業したいんです』と正直に伝えれば、何か得られるものがあったかもしれません」
集客の工夫と固定客の作り方
――売上・集客アップのために効果があった取り組みはありますか?
「自宅で整体をしていますが、屋外イベントに出店することもあります。イベントではお客さんに名刺を渡したり、同じく出店している同業のセラピストさんにも名刺を渡して自分をアピールしています」
北川さんによると、公民館や地域のフリーマーケットなど、様々な場所で開かれるイベントに参加することで新規客を獲得しているそうです。イベント情報は声をかけられることもあれば、自分でネットで検索して応募することもあるとのこと。
――リピーターを増やすための工夫は?
「言葉にすると難しいですが『お客様をお金として見ないこと』が大切だと思います。私自身もお客として様々なサロンに行きましたが、自分をお金としか見ていないセラピストの存在を感じることがありました。私は絶対にそうならないようにしています」
北川さんは「お客さんの身体と向き合うこと」を大切にしています。
「お金を探す宝探しではなく、お客さんの身体のどこが疲れているのか、何を求めてサロンに来られたのかを追求することが大切です。お客さんの身体に触れていくうちに、手から伝わるものがあります」
業界の課題と今後の展望
――リラクゼーション・整体業界の課題は何だと思いますか?
「セラピストや整体師の人口がどんどん増えています。整体師だけでなく、理学療法士や柔道整復師など国家資格を持つ若い方も多く、その中でどうやって生き残るか、お客さんに選んでもらえるかが課題です」
北川さんは「永遠の課題かもしれない」としながらも、「ゴールが見えないからこそ長く続けられる仕事だ」と話します。
――今後の展望について教えてください
「あまり頑張りすぎる必要はないと思っています。最初は勢いで『これもやろう、あれも揃えよう』と思いましたが、そこまで頑張らなくても良いと感じています。好きなペースで、自分の生活ができる水準くらい稼げれば十分です。長く続けることを第一に考えています」
これから開業を考える方へのアドバイス
――これから整体サロンの開業を考えている方へのアドバイスをお願いします
「新しく始めたいということは、それだけもう第一歩を踏み出したということ。私も応援したいです。私自身、夢が叶うまでに10年くらいかかりました。急がなくても長い目で見れば、やる気さえあれば夢は叶うと思います」
開業を通じて得た学び
――店舗運営を通して得た一番大きな学びは何ですか?
「会社員の時は職場に行って8時間働き、給料をもらうだけでしたが、独立してからはお客さんからいただくお金一つ一つにものすごいありがたみを感じるようになりました。会社員時代は給与明細の数字を見て一喜一憂していましたが、今は5,000円や6,000円でも重みを感じます。お金の大切さとお客さんへの感謝の気持ちが大きくなりました」
まとめ:整体サロン開業で失敗しないために
北川さんの経験から、整体サロン開業で失敗しないためのポイントが見えてきました。
- 資格取得は厳選する:短期間で多くの資格を取るよりも、1つの技術に特化する方が効果的
- 先輩の知恵を借りる:同業者、特に開業経験者からアドバイスをもらうことが重要
- 集客には時間がかかると認識する:開業から軌道に乗るまで8〜9ヶ月かかることを想定しておく
- イベント出店や情報発信を積極的に:地域イベントへの出店やSNS発信が新規客獲得に効果的
- お客様との関係性を大切に:お客様を「収入源」としてではなく、1人の人間として向き合う姿勢が固定客獲得につながる
- 無理せず長く続ける:華やかな開業よりも、長期的に継続できるペース配分を考える
整体サロンの開業は決して簡単ではありませんが、北川さんのように着実に歩みを続ければ、必ず道は開けるようです。失敗を恐れず、しかし先人の経験から学びながら、自分らしいサロン作りを目指しましょう。
北川久美子さんのサロン情報 :Instagram
編集後記

北川さんとのインタビューを通して、整体サロン開業の裏側にある現実と挑戦が見えてきました。私たちがよく目にする整体やリラクゼーションサロンの一つ一つに、このような起業ストーリーがあると思うと、街の風景が少し違って見えてくるのではないでしょうか。
北川さんのお話で特に印象的だったのは、「お客さんをお金として見ない」という心構えです。サービス業において最も大切な姿勢かもしれません。また、開業前後の苦労と工夫、特に最初の8〜9ヶ月間はほとんど来客がなかったという現実は、これから開業を考える方にとって貴重な情報でしょう。
整体サロンの開業を考えている方にとって、この記事が少しでも参考になれば幸いです。同時に、地域の小さなサロンには、北川さんのような熱意と誠実さを持った経営者がいることを知っていただければと思います。機会があれば、ぜひ足を運んでみてください。
最後になりましたが、お忙しい中インタビューに応じてくださった北川さんに心より感謝申し上げます。これからのサロン経営がますます発展されることをお祈りしています。
本記事は実際の店舗経営者へのインタビューをもとに作成しています。
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