「新しい機械、新しいメニュー、そして地域密着。これで食べていける」
地方都市で脱毛エステサロンを営む22歳の若き男性経営者・古屋さんが、開業から3年で月の予約が3週間先まで埋まる人気店に成長させた軌跡を辿ります。コロナ禍の開業、クラウドファンディングの活用、そして大学通学と経営の両立まで、エステサロン開業を考える方必見の成功体験をご紹介します。
店舗経営者プロフィール

古屋翼さん、22歳、静岡県出身の現役大学生。東京の大学に通いながら、地元・静岡県で脱毛を中心としたエステサロン「INANNA」を経営。開業3年目で予約が3週間先まで埋まる人気店に成長させた若き店舗経営者。
店舗情報:Instagram
エステサロン開業のきっかけは「古い機械」への疑問から
「自分自身、元々ヒゲ脱毛をやっていて、いくつもの脱毛サロンに通っていました」
自分のコンプレックス解消のため、初回お試し価格を活用して県内の様々なエステサロンを巡る中で、ある事実に気づいたといいます。
「どのお店も同じような脱毛機械を使っていて、しかも最新のものではなく、1〜2世代前の機械を使っていることに気づいたんです。これいけるかも?と思って…」古屋さんはその瞬間、ビジネスチャンスを直感したといいます。

「もし自分が開業するなら、最新の機械を導入し、脱毛だけでなくホワイトニングなど多様なメニューを提供すれば、この業界で生き残れると確信しました」
その確信は強く、翌日には事業計画書の作成に取り掛かったそうです。
開業までの準備:大学の授業が役立った
事業計画書の作成から開業までの道のりは、意外にも大学での学びが大きな支えになったといいます。
「元々短期大学部に所属していて、経営のことや設立登記の方法などを授業で学んでいました。その知識を基に、Google検索や経営の手引きなども参考にしながら準備を進めました」
フランチャイズでの出店も検討したそうですが、メリット・デメリットを慎重に比較した結果、独立開業を選択しました。
「フランチャイズだとロイヤリティや加盟金、売上の一部を本部に支払わなければならない。リスクは高いけれど、ゼロから自分で作り上げた方が、軌道に乗れば長期的に利益が出ると思いました。また、立地選びにもこだわりました。駅近で人通りの多い場所を選べたのも、フランチャイズではなく独立したからこそ。フランチャイズだと出店場所も限られてしまいますから」
大学生ながらも冷静な事業判断と周到な準備が、後の成功につながる土台となりました。
エステサロン開業の資金はクラウドファンディングで調達
多くの開業者が直面する資金調達の問題。古屋さんの選んだ道は銀行融資ではなく、クラウドファンディングでした。
「銀行からの融資は一切受けず、クラウドファンディングと両親からの支援(一部)で開業資金を調達しました」
クラウドファンディングでは無事目標資金を集めることに成功。支援者には開業後のクーポンを提供するなど、集客にも繋がる工夫をしたといいます。
「約220人の方が支援してくださいました。開業後も県外から足を運んでくださる方もいて、本当に感謝しています」
クラウドファンディング成功までの苦悩
しかし、クラウドファンディングの成功は簡単ではありませんでした。古屋さんは当時を振り返ります。
「クラウドファンディングのホームページ制作から始めなければならなくて。本当に素人の大学生が作るようなページに誰が支援してくれるんだろうと不安でした」
準備期間は寝食を忘れるほどの奮闘だったといいます。
「本当に3ヶ月ほど、もうずっとZoomでの打ち合わせが深夜まで続いて。ホームページをどう魅力的に見せるか、リターンをどうするか、毎日試行錯誤の連続でした」
支援してくれたのは最初は家族や身内だけ。それでも諦めずに工夫を重ねた結果、徐々に支援の輪が広がっていったそうです。
「どう伝えれば私の想いや事業の価値が伝わるか、何度も何度も書き直しました。一人でも多くの方に共感してもらいたくて、SNSでの拡散も友人に頼み込んだり…」
目標金額を超えたときの喜びは、今でも忘れられない瞬間だったと語ります。
「目標達成の通知が来たときは本当に嬉しかったです。これでスタートラインに立てる。でもここからが本当のスタートなんだと、責任も感じましたね」
開業初期の苦労と転機
開業直後は好調だったものの、1ヶ月を過ぎたあたりから客足が途絶え始めたといいます。
「ひどい時は2週間で1人とか2人の時もあって、予算と全く乖離していました。潰れそうで危機感を感じました」
そんな中、同級生から助言と協力を得られたことが転機になったそうです。
「その友達が『手伝うよ』と言ってくれて、ホームページから作り直し、メニュー内容も変更。最新の業務用レーザー会社探しもしてくれました。」
新しい機器での施術効果が口コミで広がり、状況は一変。今では東京や茨城など県外からも顧客が訪れるほどの人気店になりました。
集客の秘訣は地道な努力
開業当初の集客方法は、今では想像もできないほど地道なものでした。
「SNSでの宣伝はしていましたが、フォロワーも10人程度。近隣住民へのチラシ配りや、ロードバイクで県内を巡って1日100枚のビラ配りをしていました」
特筆すべきは、ポストに投函するのではなく、一軒一軒インターホンを押して直接声をかけたこと。さらに、近くの公園で遊ぶ親子連れにも積極的に声をかけたといいます。
「初回来店の方には2回目以降30%オフ、口コミをしてくれたらクーポン券プレゼントなどの工夫をしたら、どんどん口コミが広がりました」
その努力が実り、今ではSEOでも集客できるまでになったとのこと。
スタッフ採用の難しさと工夫
人材確保も大きな課題でした。求人媒体では他のエステサロンの求人に埋もれてしまい、なかなか応募がなかったといいます。
「本当に人がいなくて…。インディードやタウンワークに何度も掲載しても、全然応募がこないんです。来ても資格を持っていなかったり、面接すらドタキャンされたり」と古屋さんは当時の苦労を振り返ります。
埼玉のイベントでの出会い
そんな中、思い切った行動に出ました。
「埼玉で開催されたエステ業界のイベントがあると聞いて、即決で行きました。自分のお店のブースを出す予定など全くなかったんですよ。でも『もしかしたら資格を持った人に出会えるかも』という一心で」
会場に着くなり、古屋さんは驚くべき行動に出ます。
「自分でも笑っちゃうんですけど、会場内のブースを一つ一つ回って『すみません、静岡でエステサロンを開業したばかりで…』って営業トークをし始めたんです。多くの人は『何この人?』って感じだったと思いますが、諦めずに声をかけ続けました」
その姿に興味を持った人から「知り合いで資格を持って職を探している子がいる」と紹介されたのが転機でした。
「まさかの偶然で、その子も静岡県の富士市の出身だったんです!『こんな偶然あるの?』って思いました」
粘り強い交渉と人材確保
しかし、そこからも簡単ではありませんでした。
「最初の面談では『給料が保証できない』と正直に伝えたら案の定断られて…。でも諦めきれなくて、『利益の何パーセントかをインセンティブとして支払う』という提案を考え、一ヶ月かけて説得し続けました」
その熱意が伝わり、ついにスタッフとして働いてくれることになったといいます。
「本当に今でも感謝しています。あの時の粘り強さがなかったら、今のお店はなかったと思います。彼女は今でも欠勤なく働いてくれていて、お店の大きな支えになっています」
最初の1人が見つかったことで、その後は徐々にスタッフを増やすことができたそうです。
現在は4人のスタッフを雇用し、自身は現場よりも経営や広告・ホームページ戦略に専念しているとのこと。
大学生と経営の両立
東京の大学に通いながら静岡で店舗を経営するという多忙な日々。どのように両立しているのでしょうか。
「現在は春休み中なので店舗に集中できています。基本的には資格を持ったスタッフに現場を任せ、自分は広告やホームページ、イベント企画などの経営業務を担当しています」
今後の展望
1店舗目で利用者を増やした今、次なる目標は事業拡大だといいます。
「直営店として、あと2〜3店舗ほど展開したいと考えています。都心ではなく地方で地域密着型の展開を続けていきたいです」
都心での競争の厳しさを考えると、地域密着型の方が生き残る可能性が高いと古屋さんは分析します。
「東京では数パーセントしか生き残れないのに対し、地方なら地域から愛されてゆっくり成長できると思います」
これから開業を考える人へのアドバイス
最後に、エステサロン開業を考える人や若い世代への助言を聞きました。
「特に20代前半や学生の方には、銀行からの借金はせず、自分のポケットマネーの範囲内でチャレンジすることをお勧めします」
また、地域の商工会や大学の起業支援制度の活用も勧めています。
「学生のうちは借金しなければ、失敗も経験として活かせます。若いうちはいくらでも失敗できるので、まずは小さく始めてみることが大切です」
まとめ:成功の3つのポイント
- 差別化戦略の明確化:最新機器の導入、多様なメニュー提供など、他店との違いを明確に
- クラウドファンディングの活用:銀行融資に頼らない資金調達と、支援者を顧客に変える戦略
- 地域密着型のマーケティング:SNSだけでなく、対面での地道な集客活動
エステサロン開業は決して簡単な道ではありませんが、古屋さんの経験が示すように、明確な差別化戦略と地道な努力があれば、若くても成功することは可能です。失敗を恐れず、小さく始め、顧客の声に耳を傾けながら成長していくことが、エステサロン経営成功の鍵といえるでしょう。
編集後記

インタビューを通して感じたのは、古屋さんの行動力と粘り強さです。開業時の地道なビラ配りから、スタッフ採用のための粘り強い交渉まで、「やるしかない」という前向きな姿勢が印象的でした。エステサロン開業を考える方だけでなく、あらゆる業種の店舗経営者にとって、勇気をもらえるストーリーではないでしょうか。
コメント